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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)507号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所函館支部に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士岩沢誠、同桐田喜久造の上告理由について。

按ずるに、上告人は原審において(一)、上告人は本件土地の買入代金四〇〇円を出捐した外現実にこれを使用収益しており、殊にその一部はこれを訴外林庄治に賃貸していたこと。(二)、上告人は被上告人星山昭三の先代利一に対し本件土地買取方の交渉を依頼したものなるところ、その売買契約成立後、その売主である田中綱吉が突如殺害され、その家督相続人である田中角太郎が右売買契約を否認しこれが登記手続を肯じなかつた為め、上告人はやむなく右売買契約の証書面上の買主であつた右利一をして右角太郎に対し所有権移転登記手続請求の訴を提起せしめ(その訴訟提起に要した費用も自己が負担した)、かくて原判示の勝訴の判決を得たものであること等の各事実を主張したことは本件記録(上告人提出の昭和二八年七月一七日附準備書面及び同二九年二月八日の原審口頭弁論調書参照)に徴し明らかである。従つて、もし、右各事実が上告人提出の所論諸証により肯認されるものとすれば、本件土地は上告人が自らの出捐において買い取つたものであり、ただその買入方の交渉を前示利一に依頼したものなるところ、利一はこれを奇貨として自己を買主名義とした売買契約証書を作成したに過ぎないものであるとの事実が、あるいは認定し得られるやも計り難いのである。然るに原審は前示(一)(二)の各事実について逐一思を運らした形跡がないばかりでなく、しかも右各事実について、その立証資料とされた甲第三号証はその奥書の点に徴し反対事情の認められない限り、その記載内容を措信するのを当然とし、また、同じく甲第七ないし第九号証はその記載文面及び体裁よりして特に反対事実の認むべきもののない限り、その記載どおりの事実を認むるのを当然とし、以上書証を所論人証(但し証人星山セイの証言を除く)と照合して、考量するときは右各事実が一応肯定されたであろうと認められるにも拘らず、原判決は右各書証について何ら首肯するに足る理由を示すこともなく、ただ漫然とこれを採用できないとしたのは審理の不尽であつて、理由不備の欠陥を蔵するものと考えざるを得ない。よつて論旨は爾余の点に関し論及するまでもなく、理由あるものと認め、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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